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東京高等裁判所 昭和48年(ツ)49号 判決

上告人 日本相互住宅株式会社

右代表者代表取締役 池田仁一

右訴訟代理人支配人 菅原道也

被上告人 加藤尊久

右法定代理人親権者

父 加藤貴一

同母 加藤はつ

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

本件上告の理由は別紙のとおりである。

上告理由第一点について

所論は、原裁判所が上告人の唯一の証人申請を採用せず、第一・二審を通じて上告人側の証拠調べをしないで、一方的に訴訟が裁判をなすに熟したとして終局判決をした点に訴訟手続の法令違反があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるという。

記録によると、被上告人は、訴外増田一郎(第一審被告・確定ずみ)を加害者とする交通事故により、上告人会社を自賠法三条の運行供用者として損害賠償の請求をし、上告人はこれに対し、その加害車両の保有者であることを認めたうえ、「訴外増田一郎は上告人会社に無断で勤務時間外に車輛に乗っていったもので、会社は運行の支配を欠いていた。」旨を主張して、結局運行供用者責任を否定し、かつ、被上告人主張の損害を知らないとして争って来たこと、そして、第一審裁判所は、計八回の口頭弁論期日を経て、右争点に関する被上告人の書証および人証(証人一名、原告法定代理人一名)の取調べをしたが、上告人申請の証人神郡栄(いわゆる同行証人)は、一旦採用したものの、証拠調期日に同人が不出頭であり、上告人代理人が申出を撤回したため右採用を取り消し、また、原審裁判所は、計四回の口頭弁論期日を経て、被上告人申請の交通事故記録を書証として取調べたが、上告人申請の証人神郡栄、同増田一郎は採用せず、それぞれ審理を終結して被上告人勝訴の判決をしたことが明らかである。

右に見た訴訟の経過における当事者双方の主張、殊に上告人における運行支配の喪失という抗弁事実の主張と、前記神郡栄外一名を証人とする上告人提出の証拠申出書および尋問事項の各記載をあわせ考えれば、原審において上告人が申請した右二名の証人は、右の争点に関する上告人側の唯一の証拠方法というべきである。しかし、増田一郎が上告人会社の従業員であることは、原審口頭弁論の全趣旨により上告人の自認するところであり、係争の事故が発生したのは、昭和四五年四月六日(月曜日であることが明らかである。)午後二時頃であることは、当事者間に争いがないことが、原判文上明らかである。してみれば、上告人の前記主張は、そのとおり事実関係であると仮定しても(増田一郎が三方原町にセールスに行くためという原判決の判示の当否をしばらく措く。)、自賠法三条の規定による運行支配という概念の内容として一般に採用されている考え方によれば、運行支配の存在を自認したにも等しいことであり、これと反対にその喪失を理由づけるにはほど遠く、その限りでは主張自体理由がなく、あえてその点に関する証拠調べを要しない事実主張ないし抗争である。そうして他に、右の運行支配の喪失を肯認させるに足る別段の主張は、原審において上告人から何らなされていないことが記録上明らかである。してみれば、原審が上告人による前記の証人申出を採用しなかったことは、これを違法と目すべきではない。所論は、結局理由がない。

上告理由第二点について。

上告代理人は、原審において商法の規定による支配人の資格で訴訟代理人(控訴代理人)として関与し、第一回口頭弁論期日において、裁判所から、その訴訟代理権の存在について証明を求められた(のちの第三回口頭弁論期日において、右代理権を認める旨裁判所から告知された)ことが記録上明らかである。しかし、右原裁判所の措置は支配人の営業範囲(本店と支店の関係)に関する法律上の疑義に基づくものであったことが推認され、この一事をもって、右原審における訴訟代理人をことさら弁護士たる訴訟代理人と差別して取扱ったとはいえず、その他記録を精査しても、上告人の原審訴訟代理人が弁護士でないために上告人に偏頗、不公平な審理・裁判をした形跡は認められない。したがって、原判決に憲法一四条の違背があるという本論旨も採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条の規定により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中西彦二郎 裁判官 小木曽競 深田源次)

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